「幻の女」(横溝正史)

読み手を作品世界に釘付けにして離しません。

「幻の女」(横溝正史)
(「幻の女」)角川文庫

叫び声を聞いた三津木俊介が
飛び込んだホテルの部屋には、
タオルで簀巻きにされた上に
胸を抉られ、さらには
腕を切断された
女の惨殺死体があった。
現場にはアメリカで
殺人を繰り返していた
「幻の女」の血文字が
残されていた…。

由利麟太郎・三津木俊介コンビの
シリーズの一つです。
戦前の昭和12年の作品であり、
この時期の横溝作品特有の、
何でもありの面白さです。

本作品の味わいどころ①
殺人鬼「幻の女」とそれを凌ぐ殺人魔

アメリカでは
ファントム・ウーマンと呼ばれ、
「女のくせに人を殺すこと、
大根を切るくらいにしか
心得ていない」という
希代の殺人鬼・「幻の女」。
本作品はこの「幻の女」と
由利・三津木コンビの対決かと思いきや、
それと目されている女が
いきなり惨殺されます。
冒頭に登場する怪美少女は、
その殺人鬼さえ手玉にとる
極悪殺人魔か?
女殺人鬼と
美少女殺人魔の謎めいた存在が、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

本作品の味わいどころ②
三津木俊介の活躍と死亡

開始数頁ですでに
三津木vs怪少女の対決が始まります。
そして「幻の女」らしき女の死体の発見、
怪美少女の正体を突き止めての
再対決と、本作品は新聞記者・三津木の
冒険が目白押しです。
それだけではありません。
怪美少女の身柄を拘束したと思えば、
次の瞬間には逆に拉致されている、
さらに真の「幻の女」の乱入に遭い、
あえなく銃殺されてしまいます。
ついに俊介最後の日か?
敏腕新聞記者・三津木俊介の
獅子奮迅の活躍と衝撃的な死亡が、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

本作品の味わいどころ③
籾山家の二人の娘・京子と久美子の暗躍

「幻の女」と何らかの関係があり、
自分の過去を必死で隠そうとしている
富豪・籾山子爵。
その娘・京子と姪・久美子が
それぞれ謎の行動を起こします。
京子が三津木を頼って
情報提供を働き掛けると、
久美子はそれを知って隠密行動に走る。
久美子には何やらいわくありげな
謎の友人(手下?)がいる。
ともにうら若き乙女である
京子と久美子の、
秘密裏に進む対立関係と運命の分岐は、
読み手を作品世界に釘付けにして
離しません。

文庫本にして約130頁の中編ながら、
長編並みの密度の濃い展開と
冒険活劇が繰り広げられます。
現代の若い人たちには
とうてい受け入れられそうにない
世界なのですが、
昭和の時代のミステリーとは
このようなものなのです。

(2019.12.20)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

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